人は見た目で判断してはいけません
また沖田の悪い癖が出たと、土方は辟易した。
「おい、総悟!!いいかげんにしろ!!」
土方は沖田の暴走を止めようと、沖田を捕まえて詰め寄った。
そうこうしている間に、あの少女は着々と準備を進めている。
道場には沖田が触れ回って集めた野次馬どもが押し掛けている。
「そう心配しなさんなって、怪我しねえようにちゃんとしまさァ」
当の本人は全く悪気がなく、少女が立合の準備をしている間に手合わせをする相手を一人見繕っている。
その態度に土方はますます苛立ちを覚えた。
「そういう問題じゃねえだろ」
彼女が強かろうと、弱かろうとそんなことが問題なのではない。
彼女が刀を持っていること自体が問題なのである。
おまけに、その刀が悪名高い攘夷浪士の重要参考物だ。
簡単に事が済む話ではない。
当然沖田にもあの小太刀を返す気などさらさら無いはずである。
そのことを知れば、彼女が出る次の行動など簡単に想像がつく。
小太刀を取りかえすために自分達に刃向かい職務妨害で逮捕されるか、小太刀を諦めるかしか彼女には選択の余地など初めから無い。
どちらにしても、彼女が納得のいく選択肢など無い。
まさに茶番なのである。
「何のつもりだ。あの餓鬼が俺たちとヤり合えるとでも思ってんのか」
勝負にならない事など、目に見えている。
女だということに加え、彼女の体はあまりにも華奢だ。
同年代の平均身長を優に下回り、手足は力を加えれば簡単に折れそうである。
そんな少女が、屈強な隊士に勝てる筈がない。
剣術の心得はあるらしいが、体格差と経験値は簡単に彼女を屈服させるに違いない。
「さぁ〜どうですかねィ」
沖田は土方の問いに真面目に答える気もなく、彼女が倉庫内の木刀を漁っているのを興味なさそうに見ている。
「どうせ小太刀は返さねえつもりなんだろうが。何の茶番だ」
「良いじゃないですかィ少しくれェ。それに、あいつの正体が分かるかもしれやせんゼ?」
その一言に土方は黙った。
全く何も考えていないようで、実は考えていることがあったらしいことに今更驚く。
彼女が使う流派が分かれば、そこから得られる情報は少なくない。
得られた情報から彼女が関係したであろう組織や人間関係は、容易くは無いが調べるきっかけにはなる。
ただ単に自分の娯楽のためだけに、この勝負を提案したのではないことに土方は少し納得してしまった。
だからといって、情報収集の方法など他にいくらでもある。
「まぁ、楽しみましょうヤ」
と、沖田は年相応の笑みで応えた。
沖田は倉庫で木刀を素振りしている少女へと歩み寄った。
どうして止められなかったのか、土方には分からない。
沖田の言い分は尤もらしいが、それを肯定するには子供じみている。
副長としてこんな茶番は止めなければならないと頭では分かっていながら、それを実行するために動こうという気にはなれなかった。
2015/05/04 再投稿
2011/02/20